「楽になるだって…? …お前がそうだからか? 一緒にすんな!! 俺とお前では違う!!」

「アタシだって辛かったわよ! でも……確かに、アタシは記憶喪失のアンタを抱えていたし、環境のまったく違うこの世界に戸惑う事が多くて、どっぷり悲しみに浸っている場合じゃなかったから、立ち直りも早かったんだろうと思うけど…。でも、大切な人達を失った悲しみを、忘れたわけじゃないわ…」
 
陽央はなるべく落ち着いた口調で、黎に語りかける。どれだけ悲痛な想いを抱いているのか、それが解るから。そして“遺言”を守りたいから。

「今でもリトゥナの夢にうなされる事もある。でもね、アタシはこう考えてるの。ここに来たのは偶然なんかじゃない。…ノアと、黎のお母さんが、ここに導いてくれたんだって」

「…!」

黎の瞳が大きく見開く。

「ここでアンタを見ていて本当にそう思ったわ。だって…」

「ああ、そう」
 
黎は陽央の言葉を低い声で遮る。

「じゃあ何か? この場所に飛ばされて、“乃亜”に出会って、優しい家族の中で笑っていられたのは、皆ノアのおかげだって言うのかよ! …冗談じゃねえよ!」
 
この二年間の記憶は鮮明に覚えている。
 
優しい兄夫婦とかわいい姪っ子。隣には“乃亜”がいて。ほのかな想いまで抱いて。キラキラと輝くような幸せの中にいたのだ。