「でも、解っちゃったんだあ…。黎が倒れる前に、『ノア』って言ったの聞いて……。違和感感じたの。陽央の話聞いて……納得~……。ああ、この人、私のこと見てなかったんだ……私じゃない“ノア”を見てたんだって…っ」
 
大きな目から、ボロボロと涙が溢れ出してきた。

「うえ~……ねえ、陽央、私、どう、したら、いいの…? 解んない……」

「乃亜…」
 
どうしたらいいのだろう。
 
それは、誰にも解らなかった。ただ、涙を流す乃亜の頭を、そっと撫でてやった。
  


それから数日。
 
相変わらず眠り続ける黎の元へ、乃亜は学校帰りにやってきた。
 
簡素な造りの病室。最初に黎を発見してから、ずっと眠り続けていた所と同じ病室。彼はまたそこに寝かされていた。

「黎…」
 
静かに呼んでみる。しかし返事はなかった。
 
コトン、と丸椅子を置き、それに座る。まったく反応しない寝顔を眺めていると、また涙が出そうになった。

「うう…」
 
乃亜はギュッと目を閉じて、泣きそうになるのを我慢した。
 
「好き」という気持ちはどうにもならない。

記憶を取り戻したら恐らく別人のようになる、と聞かされた今でも、その気持ちがなくなることは無かった。たとえ、その瞳に映るのが自分ではないのだとしても…。
 
急に気持ちを変える事など出来なかった。
 
今はただ、黎が無事に目覚めてくれるのを待つだけ…。