NOAH

「もうすぐ、自由にしてやるからな。もうすぐ、終わるから…」

『…レイ』
 
ノアは硝子から顔を離した。

『何をやらされてる? とんでもないことしてるんじゃないのか?』

「…いや…」

『ヒューイの言い成りにはなっちゃ駄目だ』

「……」
 
ノアの力強い瞳に、レイは今やっていることを手短に伝えた。

『博士がそんなものを…』
 
ノアは驚く。

『…レイ、あたしは…』
 
ノアの方の扉がバタンと開き、大男が現れた。ノアは細い腕を捕まれ、引きずられていく。

「ノア!」
 
ノアが振り返る。

『あたしは、博士と同意見だ!』
 
去り際、そう叫ぶ。

「レイ様、戻りますよ」
 
レイも、ヒューイの部下に連れられ、部屋を出る。

(母さんと同意見…)
 
つまり。
 
『NOAH』は破壊しろ、ということだ…。
 
椅子に座って、モニターを見つめる。
 
ノアの力強い瞳が浮かんできた。希望の明りの灯った、清らかな瞳が。

(…やれるか?) 
 
チラリと研究員達を見る。
 
この者達に悟られる事なく、ディージェの破壊のプログラムを作成するのは困難だ。それ以上に複雑なものでないといけない。

(やるしかねえだろ!)

仮にも、自分はこの巨大なコンピュータを造り上げた博士の息子なのだ。こんなヤツラとは頭の出来が違う──! そう、自分に言い聞かせる。
 
再び、キーボードを打つ。
 
今度は希望を胸にして。