それから、何時間経過しただろうか…。
 
レイは鬼気迫る勢いでパソコンのキーボードを叩いていた。
 
『NOAH』の転移装置へ向かう途中で見た白い研究室で、ヒューイの部下達と研究員達数名に監視されながら。
 
折られた両足はきっちりと手当てがしてあり、痛み止めの点滴も受けていた。すぐにでも作業に取り掛かれるようにと──ヒューイの配慮から。

 
ただ、黙々と作業を進めるしかなかった。
 
少しでも早くノアを助けるために。
 
彼の頭の中には『地球』という星の存在など微塵もなかった。母の遺した言葉も、遥か昔の出来事。
 
今は、ただ。
 
ノアに逢いたい…。


 
一昼夜が過ぎ、異変に気付いた者がいた。
 
ヒオウである。

「…おかしいわね…」
 
研究室に来てもレイの姿がない。いつも傍に随っていた研究員達の姿もない。いるのは、見慣れない顔ばかりだ。
 
聞いても誰もレイの所在を知らない。
 
そして、ノアもどこにもいない。今日は一緒にスラムに行くと約束していたのに。

「…まさか」
 
嫌な予感がした。
 
二人が同時にいなくなった…。これはただの偶然か? 

いや、そうでない可能性の方が高い。どこからか二人の情報が漏れたのだ…。

「くそっ…」
 
ヒオウは確かな情報を集めるべく、奔走する…。