白い壁の狭い部屋に、窓にかけられた淡い黄色のカーテンが穏やかな風に揺れている。

あの黄色は……どうやら花のようだ。

大きな花びらが何枚もついた花は、やはり大きな花瓶に生けられていた。そして、それを重そうに持つ、短い黒髪の少女──。
 
歌の主はこの少女のようだ。少女は歌いながら花瓶を窓際のテーブルの上に乗せようとしていた。
 
ドンッと鈍い音がして、花瓶はテーブルに乗せられる。少女は「ふーっ」と息を吐き、ニコッと笑った。

そして、レイの方に視線を投げ──目が合った。

「……」
 
少女は笑顔のまま固まっている。

「あの……誰?」
 
そう訊いてみた。
 
何故かうまく声が出なくて、擦れた声になってしまったが……聞こえただろうか?

「うあっ、あああ、レイっ、あー、うー」
 
少女はかなり慌てた様子で、両手に握りこぶしを作って顔を百面相にしている。

「…あの…」
 
もう一度訊ねようとすると、少女が口を開いた。

「こ、コンニチハ。あー、オゲンキデスカ?」
 
何故かカタコトで喋る少女。

「あー、…マツ、イイ?」

「え?」

「マツ。マツ」
 
何を言っているのかがイマイチ良く分からないが──一生懸命手を動かしながら、少女は後ずさりし、先程入ってきたと思われるドアから出て行った。