「レイ様の指紋、声紋や遺伝子でも動きません。他に考えられるとしたら…」

「……直接触らせてみるか?」

「はい。ですが、それはすでにレイ様が子供の頃に検証済みです。あの時もまったく反応はありませんでした。……それでも、やってみる価値はあるかと」

「では、うまく誘き出せ」

「承知いたしました。それと、もう一つ、報告がございます」

「なんだ」

中年の男は、そっと、ヒューイに耳打ちした。
 
ヒューイはしばらく黙っていた。
 
そして、徐に笑いを堪えきれず、腹を抱えながら歩き出した。

「奴にそんな度胸があったとは! はっはっはっ、愉快だ! こんなに愉快なのは久しぶりだ!」
 
気でも違えたのかと思うくらい、ヒューイは笑い続けた。
 
そして。
 
鋭い瞳をキラリと光らせた。

「相応の償いをしてもらおうではないか。ククク、面白くなってきた。これで作業も捗るな」
 
そう語る瞳は、長い間仕えてきた部下でも背筋が凍りつくほど恐ろしいものだった──。





「う~ん…」
 
レイはパソコンの前に座り、何度目かの溜息をついた。

「やっぱ分かんねえ…」
 
目の前にあるモニターに映っているのは、母であるディージェが残したプロジェクトのものだった。

先日見つけてから指導者に聞いたり、自分で開けようと試みたが……一向に開く気配はなかった。