しん、と静まり返った広い室内。
 
大きな窓から差し込む橙の光が、僅かに細い線を作っているところから少し離れて、白髪混じりの短髪の男が、自分の顎鬚を撫でながら立っていた。


「やっと興味を示したか」

「はい」
 
男──ヒューイは、鋭い瞳で部屋の入り口に立つ中年の男を振り返った。

「それで、何か引き出せそうか?」

「いえ、やはり何もご存知でないようです。鍵を開けることは出来ませんでした。過去、デージェ様とレイ様の接点があったことも確認されておりませんから、恐らく本当に何も知らないのだと思われます」
 
その報告に、ヒューイはチッと舌打ちした。

「あの女め…」
 
ヒューイは親指の爪を強く噛んだ。
 
そして、大きな執務机の上に無造作に置かれていた写真を手にした。そこには、生まれたばかりの子供を抱いて、幸せそうに笑っている女性が写っていた。
 
赤みのかかった茶色の長い髪の女性は、どこかレイに似ている──。

「さて……どこに隠したのだ? もう随分待ったのだがね……」
 
写真をヒラヒラと弄んだ後、それをまた机の上に戻す。
 
ヒュッと空気が音を立てる。
 
ダン!
 
小さなナイフが、写真に写っている子供の顔に突き刺さった。