診察室では更に傷口との格闘が続いていた。

「……この傷」

はっきりとは言えないが、銃創のように見える。背中や太腿に貫通した痕。僅かに掠った痕は数え切れない。それが体中に何箇所も。それに、両脚の骨が折れている。明らかに異常だ。──一体、どこでこんな怪我を……? 

少年を助けようと必死になっているところへ、困惑顔で李苑が話しかけた。

「聖くん…」

「なんだ!?」
 
懸命になっているので、少し荒っぽく返事をする。

「…血液型が、分からないの…」
 
その言葉に、聖は治療する手を一瞬止めた。

「え?」

「よほど珍しい血液型かと思ったけれど……顕微鏡で見たの。こんな型見たことないわ」

「……」
 
李苑は大学で血液学を専攻していた。その彼女が見たことのない血液型…? 今まで発見されたことのない血液型など、この世界にあるのだろうか…。
 
聖の目に、診察室の外で祈るようにして立っている人物が映った。
 
何か考えが浮かんだわけではなかった。ただ一瞬のひらめきだった。

「李苑、採血して」
 
と言いながら、その人物の手を引っ張り、診察室の椅子に座らせる。

「すまないが、君の血を採らせてくれ」
 
いきなり座らせられ、その人物は動揺している。

「──!?」
 
何かをわめいているが、何を言っているのか分からない。しかしきっと、「何をするんだ」と言っているに違いない。