「ごめんな……痛いだろ?」
 
そう優しく語り掛けるシオの声が耳に響く。

「もうすぐ薬が届くからな。そうしたら少しは楽になるよ」
 
今にも崩れ落ちそうなただれた肌に触れる彼女。
 
信じられなかった。
 
この光景を見て物怖じするどころか、あんなに優しい顔で触れられることが。


『逃げんなよ』

 
そのシオの言葉がなければ、きっと外に逃げ出している。

背中や額にじんわりと汗を滲ませ、震えてくる手足をなんとか押さえ込むので精一杯だった…。


小一時間程で先程の看病人達が戻ってきて、レイ達はやっと部屋の外に出ることが出来た。

「…ごめんなさい」
 
ヒオウは顔を真っ青にして、階段を駆け上がっていく。
 
レイも、階段を上がりきったところで座り込み、大きく息を吐いた。
 
反動で肺に雪崩れ込んでくる大量の空気はとても新鮮に感じられ、思わず涙ぐんだ。

「良く逃げなかったな」
 
頭上からシオの声。

「何も知らないお坊ちゃんにはキツイと思ったけど…。お前もヒオウも偉かったよ」
 
誉められているのだろうが、まったくそんな気はしなかった。