NOAH

その時、彼女の喉にある大きな傷に気付いた。
 
また力が抜けて、「ヒューヒュー」と苦しそうな息遣いが聞こえてくる。

(声……出ないのか……)
 
おそらく声帯を傷つけられたのだろう。

「はい、トモ、もう少しだよ!」
 
また手に力が入る。
 
レイは無意識のうちにトモと一緒になって体に力を入れていた。
 
一緒に力を入れて、抜いて、また力を入れて。
 
何回かそれを繰り返し、一番強く手を握られた瞬間。赤ん坊が飛び出してきたのが見えた。

「やった…」
 
思わずもう片方の手もトモの手に重ね、細く小さな手を包み込んだ。
 
すぐに泣き声が聞こえてきて、部屋中に歓声が響き渡った。

 
真っ赤でしわくちゃな赤ん坊を胸に抱き、疲れた表情をしながらも愛しそうに微笑んでいるトモは、とても輝いて見えた。
 
命の誕生。
 
それを目の当たりにしたレイの心は震えていた。
 
眩しすぎて。
 
綺麗すぎて。
 
愛しさに溢れていて…。

 
トモはレイを見ると、優しく微笑みかけた。
 
口から漏れ出る風の音が、「ありがとう」と言っているように聞こえ、更に心は震えるのであった。
 
──嬉しくて。
 
涙が出そうになった。