何が悲しくてこんな男と二人っきりなんだろうと思えてきた。
ナイフをちらちら見ながら、佐藤の姿も見る。
「そういや、そーちゃんってすげえよな」
「何がです」
「奥様見たとき、真っ先に駆け寄って、死んでいるかどうか確かめるあたり」
「ああ。僕、思考が基本、クールなんですよ。ミステリばっかり読んでいるからか、そういうのに耐性ついたみたいで」
「ふーん。脈調べたりすんのも、そのミステリの知恵?」
「あれは常識でしょう。脈の取り方なんか、見よう見まねです。脈もない、呼吸もない。そうして、浴槽の底を見えなくするほどの出血となれば、死んでいるかどうかぐらい分かる」
「ふーん」
さっきから何が言いたいんだか、この男は。
ムカつきマークが出てきたところで。


