平野さんが僕がやったように扉を叩く。
「奥様、いらっしゃいますか」
同じことだ。
何の応答もない。
おかしいなと首を傾げる平野さんに、ある予想をつけた。
「もしかして、倒れているんじゃ……」
「た、倒れているって」
雫と平野さんの血の気が引く。
「寝てるにしたって、ここまでノックすれば気づくし。それに具合悪いとか言っていたからもしかして……」
取り越し苦労ならいいかもしれませんがと付け加えるが、老体には響いたらしい。
これは大変だと、階段と反対方向に走る平野さん。
「ど、どうかしたんですか」
走る音に気づいたか、隣部屋の202の出流さんが出てきた。
「あ、実は小鳥遊さんが出てこなくて、心配で」


