バイト帰りの杏は
いつものようにお店から
家の中へ入ろうとしたその時

のれんが、かかっていない事
に気がつく。

「ねえ、のれん出てないよ」

雅也は、カウンターのお客様に
食べ物を渡しながら、何度
『店から帰って来るな』
と、言って聞かせても聞かない
杏への不満の小言が、ついつい
出てしまう。

「裏から入れって
 いつも言ってるだろう」

雅也の声に少し驚く、お客様に
気を利かせた杏は、微笑んで
彼を見つめた。

「いらっしゃいませ・・・」

お客様の顔を見て、杏は驚く。

「アン
 何、驚いた顔してるんだ
 烈だよ、レツ」

杏は、少年だった烈(レツ)が
青年になっている姿に、驚きを
隠せないでいた。