・・杏は、樹の言葉に頭の中が
真っ白になってしまう。

今、隣で前だけを見つめて運転
している男性(ヒト)の横顔は
紛れも無く、ずっと胸を焦がし
憧れ続けている人

・・・樹なのだ。

その憧れの男性が、自分の事を
好きだと言う。
 
そして、杏に問いかける・・・

『君も俺が好き』・・・かと。

赤信号で停まる車、樹が杏を
見つめると彼女の真赤に腫れた
瞳から、また、涙が溢れ
右頬に流れた。

その綺麗な涙に心を奪われる樹
・・・信号は、青に変わり
後方のトラックがクラクション
を鳴らす。

その音に後押しをされ、考える
よりも先に、樹への溢れる想い
が、杏の口を衝いて出た。
 
「貴方が好きです」

杏がそう答えると、樹は
ほっと吐息をもらす。
 
彼女の答えに、大の男、彼自身
も内心、ハラハラしていた。

二人はお互いに、相手の事を
こんなにも好きになっている事
に驚く。