――やれやれ
 
 「何だってん…」
 と、僕が独り言を言わんとするとき、
 
 「ほら!」
 彼女は学生カバンから、1つチェスマンを取り出し、僕に放った。
 
 僕は慌ててキャッチする。
 「――!?」
 ナイトだった。


 「オマエは”それ”」
 「全然カッコ良くなんかないんだよ? 自惚れないで、意味をよく考えて」


 「……?」


 「で、分かったら、それを私のトコに持って来て」

――――

 この台詞は僕達の中で伝説となっている。
 振り返ると、ミヤコが言った唯一の能動的な言葉だったかもしれないそれは、僕達の原初であり、コアであり続けている。

 これに匹敵する言葉は、僕は大学生になってもまだ彼女に言えずにいる…。

 彼女はその時、気持ちが昂ぶって一息に言ったわけだが、
 もっとも、その台詞を言うに当たり、内心では相当な恥じらいがあったそうだ。
 
 今でも当時の話をすると、クールな彼女が赤らむのだ。相当である。

――――
―――
―…

 話は高校生の僕に戻って――