ふわ、と鉄太の体が離れた。

目を開けると、鉄太は背を向けて走り出していた。


「てっちゃん……っ!」


行ってしまう。
追いかけようとするのに、あたしの足はがくがくと震えて、へたりこんでしまった。


「てっちゃん! やだっ!」


暗闇に紛れ込みそうになった白い背中。
それが、くるりと振り向いた。


「郁! 幸せになれ!」


大きな声。


「絶対! 幸せになれ! オレの、願いだから!」


止めようと思っていた涙が、溢れた。
声を出そうにも嗚咽しかでなくて、あたしは何度も頷いた。

涙で、てっちゃんが見えない。
嫌だ、もうこれで会えなくなるのに。

涙を振り切るように頭をふった。


「郁!」


鉄太の声。
袖で涙を拭いて、その姿を見つめた。


「浴衣、すっげー可愛いからな! 郁が一番可愛い!」


そう言って、花火に照らされた顔は。

あたしが誰よりも好きだった、少年の笑顔。

無邪気で愛おしい、あたしの幼なじみ。


光の合間の闇。
まばたきをしたら、




鉄太の姿は消えていた――――。