「お母さん、あれ出して。赤い鼻緒の草履。下駄だとてっちゃんより背が高くなっちゃうから、履けないの」


あたしと鉄太の身長差は1センチしかない。持っている下駄を履いてしまうと、鉄太を抜いてしまう。

鉄太は見えっ張りだから、そんなことしたら並んで歩いてもらえないかもしれない。


「……赤い鼻緒の草履だね。玄関に出しておくよ」


ため息をついて、母は部屋を出て行った。
ぱたりと閉じたドアを見て、鏡に視線を戻す。
薄くだけど、メイクした顔は少し紅潮している。

緊張、なのかな。

すう、と深呼吸をして、笑ってみた。
ぎこちない笑いを浮かべたあたしがそこにいた。


「あ……っと、やばっ。遅れちゃう!」


ベッドの脇に置いた時計を見ると、約束の時間が迫っていた。

6時に結城橋で待ち合わせだっていうのに、あと20分もないじゃない。

鉄太より遅かったら、機嫌悪くするよね。
全く、気難しい幼なじみを持つと気苦労が絶えないよ。

浴衣と同じ生地で作ったバッグを持って、慌てて部屋を出た。