「……ほら、ついたぞ」


「は……っ、はあっ」


鉄太が足を止めたのは、結城川の川辺だった。
花火の打ち上げ場所よりも上流のそこは高台になっていて、あたしたち以外に人の姿はなかった。


「ここ、超穴場。陸上部の練習の時に見つけたんだ」


へへ、と笑って、鉄太は肩で息をしているあたしをむきだしの岩に座らせた。


「ほら、2人用のベンチみたいだろ」


あたしの横にとすんと座る。
確かにちょうどいい高さ。


「ふあー、あちぃ。結構走ったな」


「もう。てっちゃんが無理に走らすから、頭ボサボサだよ」


「トロいわりに、頑張ったな、郁」


「一言余計だよ。あーもう。せっかく結ったのに」


ほつれた髪をいじって、ため息をつく。
そんなあたしに構わず、鉄太は夜空を見上げた。


「ほら、見てみろよ。綺麗だぞ、星」


「え? あ、ホントだ。綺麗……」


瞬く星が一面に広がっていた。
遮るものが何一つない空。

最後にこんな空を眺めたのは、いつだっただろう。