「――……よし、と。これでいいんだよ、ね?」


姿見の前で、くるりと一回りしてみる。
そこに映る自分の姿は、手にした着付け本の写真と変わりなかった。
おばあちゃんに一度教わっただけなのに、きちんと着られたことが嬉しい。


「結構かわいいじゃん、あたし」


黒地に、鮮やかな百合の花を散らした浴衣。赤い半襟が、あたしの白いだけが取り柄の顔を引き立てている、気がした。

いつもは一つに纏めているだけの髪も、今日は綺麗に結いあげて、かんざしまで刺してみた。
うん、うなじもなかなか綺麗。


くるくると向きを変えて鏡の自分を確認していると、おもむろに部屋のドアが開いた。


「都子(いくこ)、あんた……」


顔を出した母が、あたしの姿を見て息を飲んだ。


「夏祭りでしょ、今日。行くの」


どう? とポーズをとってみると、母は目をしばたたかせた。


「それ着て、行くの?」


「そうだよ。てっちゃんと約束してるもん」


町の端にある神社の夏祭りに、一緒に行こうって誘ったのは、あたし。
幼なじみの鉄太(てつた)は渋い顔をしながらも、小さく頷いてくれた。

最後まで、クラスメイトに見つかるのが嫌だとぼやいていたけれど。