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「おばあちゃん、お帰りなさいっ」
奏来は料理が一段落したのか、手を止め車椅子に駆け寄る。
こうして繰り返される毎日、オトばあが安心できるよういつだって笑顔で出迎える。
「あら、宮本さん…だったかしら…。ちょっと待ってくださいねぇ、今思い出すから…」
近頃では、奏来の名前を思い出すのも一苦労だ。
それでも奏来は、
「うん、ゆっくり、ね?」
答えをすぐには与えず、時間をかけて待つ。
なんでも、自分で思い出すって事が大事らしい。
しばらく待ったが、オトばあの口から出るのは介護施設のスタッフらしき人の名前ばかりで、ついに思い出す事を諦めたのか、忘れてしまったのか、黙ってテレビに見入ってしまった。


