「うん」

桔梗さんは、金箔で描かれた蝶々の舞うキセルを惜しむように一通り眺め、

「ちと、たたりもっけのとこへね」

それを大事に、番台の引き出しにしまいました。かちんと音がしたので、鍵までかけたようです。禁煙するといって長続きした人が私の周りにはいませんが……桔梗さんはどうだか知れません。

さてそれより、雑誌の編集者としては聞き逃せない単語を聞いたのですが。

「たたりもっけ、ってなんですか?」

そんな得体の知れないもののところへ、香蘭さんが向かったというのが、気になります。彼女は知る人ぞ知る、町内の有名人です。なにせ、あの出で立ちで買い出し、店番、果ては倭ノ宮駄菓子店の業務を甲斐甲斐しく務めあげているのですから。装いこそああですが、いわゆるメイドのような働きぶり。礼儀正しく献身な態度で、実は人気者であると取材でわかっています。ひまわり通りの魚屋さんはついつい、健気な香蘭さんにはアジやサンマを一尾おまけしてしまうとの噂もありです。

その香蘭さんが、はて、たたりもっけ? なんでしょうかそれは。

「知らんのかね、たたりもっけ」

まだ若いはずなのに、あごをさする仕草がやたら様になる桔梗さんです。