たとえそこが街灯に照らされていようと、そばに人の気配があろうと、特別な深夜でなかろうと、不安に駆られる夜道というのはあるものです。隣に歩く人の袖を掴みたくなったり、横に並んで歩くのではなく、後ろからずっと背中を見つめ続けていたいことや、一秒も黙っていられずに中身の会話をしてしまったり……。

そんな、蜘蛛の糸を手繰り登っていくような、不安定で輪郭のない恐怖を覚える夜が、たまに。

今日もそうです。原因は言うまでもありませんが、いい大人が少女の袂をちょいっと掴んでびくびく歩いているという図も、さまになりません。

「まったく、辻井さんにも困ったものよな。のぅ香蘭」

「いえ、わたくしは別に」

「し、仕方ないじゃないですか! 体が竦んじゃうんですから!」

取材のために体当たりすることはままありますが、そういうのは一日一回と決めています。そうでないと、私の精神が持ちません。負でも正でも、人の心の境界を覗きに行く。そういう仕事ですから。

私の場合、その心労披露が、無根の『恐怖』になって膝を揺さぶってくるのです。事件の真相は知りたくとも、いっそ、倭ノ宮駄菓子店には立ち寄らず、素直に帰宅していればよかったと思うほどです。