気付け薬(?)を飲みきった桔梗さんは、「ちぃと考えごとをする」と言って、いつもの太宰的頬杖ののち、私がいろいろまくし立てるのもどこ吹く風で、瞼を閉じてしまいました。あ、これは当分こちらへは帰ってこないなと。また姿の見えない、どこのだれとも知らない千里ヶ崎さんと夢の中でお話でしょう。そうですかそうですか。揺すろうが叩こうが、もうダメだなと即座に判断を下した私は、今ここにいます。

「土屋、土屋……つ、ち、や……。――ぁ。…………あった」

右を左を眺めながら歩いていると、本当に見つけてしまいました、土屋という表札。

そこの一人息子が、土屋ともきくん、小学四年生。土屋家の長男にして一人息子です。おとなしい性格で、礼儀正しく近所の評判もよく、クラスでもいい子だという話は、特別取材をしなくても、ちょろっと聞いて回ればすぐにわかりました。夕暮れ前というのは、夕食の献立を決め倦ねている主婦さま方が、そこかしこで井戸端会議をしていますからね。そこのアナタ。自分は噂好きの口軽女じゃないと思っているかもしれませんが、私のような報道記者からすれば、ドングリの背ぃ比べですよ!

……失言ですね。