「はい、あるじさま。なにか」

「今日行くのは、どこの子かの」

「四丁目、2ー13、土屋さまのお子さんです」

「うむ。では車に気をつけての」

「はい」

私を置いてきぼりに会話を終え、彼女は日差しの中に溶けていきました。

カラスが、三回ほど鳴ける時間を空けて、ようやく桔梗さんへ視線を戻します。

「あのすみません、四丁目……土屋って」

「たたりもっけの実家じゃよ」

待ってください。お化けに、家があるのでしょうか。いえ、今まで聞いていた話をまとめるなら、たたりもっけという妖は子供のお化け。生前の家が、あるにはあるでしょうが。

いえ……よく考えてみましょう。

「桔梗さん、それってつまり――」

そこで言葉が詰まったのは、彼がずっと手に持っていたコップを、一気に傾けたからでした。微妙にこごっている液体が、のどをさらけ出すほど上を向いている桔梗さんの口に、アメーバのように滑り込んでいきます。

長い時間をかけて、しかし一息に、彼はそれを飲み干しました。いささか乱暴に、コップが番台に置かれます。コップを置くのと同時に俯き加減になっていた彼は、

「辻井さんや」

「なんですか」

はっと顔を上げ、とても真剣に、こう言いました。

「やっぱりこれ、まずいの」

「……ええ。だと思います」