最初に目を引くのは、駄菓子店の軒脇に立つ赤いポストです。ポストなど珍しいものではありませんが、それが立っているだけで、「ここはちゃんと現実の住所に存在するところなんだ」と納得できます。とはいっても場所が場所、店も店のせいで、実際にそのポストを配達員が確認しに来たところを見るまでは、私も結構疑っていましたが。あの小道は別の次元に繋がる入り口で、一度入ってしまったが最後、不思議の世界から帰れなくなってしまうのではと、若いことを思ったりしたのです。……断っておきますが、それでなくとも私は若いですよ。まだ二十四なので。

「こんにちはー、桔梗さんいます? いますよね? やっぱりいた」

「なんだね、返答も待たずに決めつけて」

「え~、だって、ねぇ」

言うまでもありませんが、桔梗さんは店の番台からほとんど動きません。ここに棲んでますから。その横に据えられている、みかん箱をひっくり返して天板を乗せただけの、お粗末な机の上で帳簿をつけている香蘭さんのほうが、よっぽど店主さまです。今日も今日とて、太宰治的頬杖を突きながら、だらしなく胡座を掻いている桔梗さんは、むしろ、一生懸命仕事をしている香蘭さんを邪魔する昼行灯です。