私は番頭からやや腰をあげた形で固まり、少年も、その場から一歩も動きません。左から照る日の白が、少年をなおのことポッカリと空間に浮かび上がらせます。そうポッカリ。ポッカリ。……ポッカリ、と?
首を傾げてしまいました。少年はたしかに日の照るもとに立っています。日を左から浴びています。が、ならばアスファルトに影が落ちていなければおかしいのですが――少年には、影がありません。
「あ、あの……、ねぇ、そこのボク……?」
動かない、影のない少年に対し、急に、なんと声をかけてよいのやら、わからなくなりました。ただじっと見つめてくる瞳の黒さが、暗さが、冷たさが、無機質さが、まるで――。
「香蘭がの」
桔梗さんでした。いつの間にか上半身を起こしていた桔梗さんが、がしゃどくろのようにか細い手で、左を指します。
「菓子を配っとるよ。あっちへ行った。もらってくるといい」
少年は、やはりなにも言いません。ただ、まるでシャッターが切れるように、桔梗さんを見、私を見、左を見ました。
桔梗さんが笑います。
「なあに香蘭は優しい。この辻井さんのように、怖くはないぞぅ」
「こっ、怖いって!? あっ、ちょっと……!」
首を傾げてしまいました。少年はたしかに日の照るもとに立っています。日を左から浴びています。が、ならばアスファルトに影が落ちていなければおかしいのですが――少年には、影がありません。
「あ、あの……、ねぇ、そこのボク……?」
動かない、影のない少年に対し、急に、なんと声をかけてよいのやら、わからなくなりました。ただじっと見つめてくる瞳の黒さが、暗さが、冷たさが、無機質さが、まるで――。
「香蘭がの」
桔梗さんでした。いつの間にか上半身を起こしていた桔梗さんが、がしゃどくろのようにか細い手で、左を指します。
「菓子を配っとるよ。あっちへ行った。もらってくるといい」
少年は、やはりなにも言いません。ただ、まるでシャッターが切れるように、桔梗さんを見、私を見、左を見ました。
桔梗さんが笑います。
「なあに香蘭は優しい。この辻井さんのように、怖くはないぞぅ」
「こっ、怖いって!? あっ、ちょっと……!」

