禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟

私がここを訪れるようになる前から、今日のようなことはままあったのかもしれませんが、はなはだ今日まで倭ノ宮駄菓子店が経営破綻に追い込まれていないのが不思議です。何度取材に来ても、彼は今日のような調子なのですから。……もしや、稼ぎのいい副業でもしているのでしょうか? それが、くだんの千里ヶ崎さんとやらに関係してくるのでしょうか?

香蘭さんも謎なら、桔梗さんも謎です。もとから奇妙な人だから、謎を持っていっても、みんな納得してしまうのです。たとえ二人がどんなに不思議でも、「まあ、倭ノ宮の旦那と香蘭ちゃんならねぇ」と町内の人も言うように、根拠も追求せず納得してしまうのです。謎は謎のまま。そこを根掘り葉掘り訊けば、必ず二人とも特集が組めます。もっともデスクには、「いまいち押しが弱い」と言われて、特集を組むのを許してもらえませんが。私としてはまず、たたりもっけを皮切りにしたいところですが……。

「桔梗さ」

食いつこうと思った矢先に、はたと気付いてしまったのです。

桔梗さんの目が、また宙をぼんやり眺めています。ああ……まぁたどこぞへ意識をトリップさせていますね。これは、またしても私の声が聞こえていないようです。