「さて」
と、またあごをさすった桔梗さんは、モノクルを外しました。それを番台に伸せると、倒れるように後ろへ寝転がり、足を振ってブーツを脱ぎ散らかします。老人くさい所作のやたら似合う、いい歳をした彼の中身は、実のところ子供なのだと思っています。
その幼い精神が、空気を読めないのでしょう。
「辻井さんや」
「はい」
「もぉ香蘭もおらんからな、帰ってくれてかまわんよ」
「いえいえ。それならむしろ、私がお店番しますよ」
「いやいや」
彼はたたみで後頭部をこするように首を横へ振りました。真っ白い短髪がさりさり音を立て、
「いてもらっても、どう店番させればよいか、わからんからの」
「香蘭さんと同じ指示をくださいよ」
「俺、『好きにせい』としか言わんよ?」
「あー……」
それはつまり、アナタひとりではなおさら、この店が回らなくなるという意味ではありませんか……? なのに私が帰ったら、どうなるのでしょう……。
と、またあごをさすった桔梗さんは、モノクルを外しました。それを番台に伸せると、倒れるように後ろへ寝転がり、足を振ってブーツを脱ぎ散らかします。老人くさい所作のやたら似合う、いい歳をした彼の中身は、実のところ子供なのだと思っています。
その幼い精神が、空気を読めないのでしょう。
「辻井さんや」
「はい」
「もぉ香蘭もおらんからな、帰ってくれてかまわんよ」
「いえいえ。それならむしろ、私がお店番しますよ」
「いやいや」
彼はたたみで後頭部をこするように首を横へ振りました。真っ白い短髪がさりさり音を立て、
「いてもらっても、どう店番させればよいか、わからんからの」
「香蘭さんと同じ指示をくださいよ」
「俺、『好きにせい』としか言わんよ?」
「あー……」
それはつまり、アナタひとりではなおさら、この店が回らなくなるという意味ではありませんか……? なのに私が帰ったら、どうなるのでしょう……。

