「薺菜」
「菜々子。図書室に来るなんて珍しい」
「私だって本くらい読むわよ」
「は●ぺこあおむしとか?」
「確かに好きだけと!!違うのよ、そうじゃなくて」
「うん、なあに?」
「昨日葵君と帰ってどうだった?」

葵君?あぁ、小日向君の事か。菜々子は小日向君と幼なじみなんだっけ。部活も確か同じバスケ部だったような。2人で話してるのをよく見かける。

「どうって……え?何で知ってるの!?」
「見てたから。私が葵君に勧めたのよ、送ってやれって」
「そうだったんだ。お陰で助かった」
「で、どうだった?ドキドキした?」

ドキドキ、ねぇ。ハラハラドキドキはしましたけど。そもそも小日向君の顔も直視出来なかった。

「やっぱりイケメンは苦手かも。キラキラ眩しくて目に悪いよ」
「じゃあ次は優等生タイプを試してみるか…」
「え?何か言った?」
「ううん、気にしないで」

菜々子にはやたら顔の良い男友達が多い。だからといって彼氏とか元彼かというと、違うらしい。菜々子のタイプは専ら年上で、現在の彼氏さんは26歳。菜々子は美人で大人びているから9歳差でもつり合っていてお似合いだ。

男友達とは、相談に乗ってるのよ、と以前言っていた。流石経験者は違う。私も一応モンスター経験者だが、恋と呼ぶ程のものではなかった。

恋、か。正直言うと人を好きになる事が怖い。ありのままの私を好きになってもらえる自信がなくて。

結局私は家でも学校でも自分の殻に引きこもっているのだ。殻を破る方法も知らないし、破る努力もしていない。

だけどどこかで待っていた。誰かがこの殻を壊して、私をここから助けてくれる事を。無意識に、願っていた。

私を、引っ張って、と。