「ずっと薺菜を見てた」

橘君の表情が引き締まったのを見て私は上体を起こした。

これから重要な事でも言うのだろうか、緊張した面持ち。私まで緊張しちゃう。

「これからもずっと薺菜を見ていたい。…守りたい」
「ひゃ…れ、れ、蓮君?」

抱きしめられたと気付くのに数秒かかった。

橘君の胸の中。心臓は早鐘を打っていて口から出てきそうなのに、何故だろう。凄く安心出来る。

「薺菜が、……好きだ」

耳元で囁かれた言葉は熱を帯びていた。顔から火が出そう。実際出ていると思う程に頬が熱い。

抱き合っていてお互い顔が見えなくて良かった。そして、夜で、本当に良かった。

ねぇ菜々子、好きってこういう事なのかな。ドキドキして、でもなんか優しい気持ち。

私は橘君にお返事する代わりに、彼の背中に腕を回して優しく力を込めた。