橘君と視線がぶつかった。逸らす事が出来ない。

「…なんだ。そうだったのか」
「……え?」
「あー、俺、勘違いしてた」

橘君は何故か照れくさそうに笑って、夜空に視線を戻した。

「俺、佐倉に嫌われてると思ってた。全然目合わせてくれなかったし」
「う…ごめん」
「でも、お前を見てるとほっとけなくて自分を抑えられなくて。迷惑かけたな」
「え、」
「…守ってやれなくてごめん」
「ううん、私は橘君に救われたの」

私は笑って寝転んだ。地面がひんやりして身震いしたけど、そのまま目を閉じた。

するり。私の髪を梳く温かい指。気持ちいい。あれ、これってどこかで…

「薺菜」

目を開いた。橘君が呼んだ、私の名前。いつか見た夢が思い出される。

「薺菜は寝ぼけてたけど、前にもこうして髪を撫でた事がある」
「…変なの。だって貴方は、私の事名前で呼ばないでしょ。……蓮君」

レン君。私が呼んだ、橘君の名前。案の定驚いた表情の橘君。

でもすぐにふっと笑顔に変わった。