その後、翌日も翌々日も
庵先輩の姿を、電車で
見る事は無かった。
  
先輩を電車で見たのは
彼に抱きしめられた
あの日が最後だった。 

今も満員電車に
揺られているとあの時の

初めて人を好きになった

ドキドキした気持ちが

よみがえってきて
何ともいえない
甘酸っぱい気持ちになる

もちろん、彼はもう

この電車の

どこにもいない。 

庵先輩の存在は、私の中
の嫌な思い出でさえも
素敵な思い出に
変えてくれる。

そう、あの日もあの場所
で、彼に会わなければ

私は見知らぬ男との一夜
を後悔して、自己嫌悪に
陥ったはず。