…と、社会の教科書に書いてあった。


世界が期待した日本、日本が期待した自国の未来は、実現されていない…と。


現実とは何とも虚しいものだと、習ったときにそう感じたのを覚えている。


しかも、テクノロジーのピークだった2010年の状態を維持しているどころか下降しているなんて。


あの時代を知っている人たちは、今どんな気持ちなのだろう。


あのおばさんも、あの魚屋のおじさんも。

最盛期の日本を知っているはずだ。


でも彼等の生み出す笑顔を見ていると、この商店街には技術の何たらなんて関係ないか…と思った。



『奥さん聞いたー?また集団自殺ですってよー』


右側にある八百屋の前で、そう言った主婦の声が耳に入った。

俺はバレないように、少し歩みを緩めて、彼女たちの声に耳を澄ます。


『あら、またぁ!?今度は何人~??』


『60人ですって!!』


―60…人か―


『まー!!そんなに大勢!?』

『この間も山奥で20人の死体が見つかったばっかりでしょう~??』

『そうそう!怖いから一緒に死にましょうみたいな闇サイトがあるんですって!』



―闇サイト―



これも確か学校で習った覚えがある。

人殺しの依頼、証明書の偽造。

そう言った仕事の取引が、インターネット上で執り行われていたらしい。


その中でも、




―自殺サイト―




これがまた最近になって話題になっている。

何たって人数が多い。

山の中や、海の奥底から発見されるのは、団体の仏様ばかりだ。


全国各地で取り上げられる集団自殺のニュースは、もはや日常茶飯事となり、厳かな顔で原稿を読むキャスターも今となっては、「またか…」と呆れ顔で似たような内容を読み上げる。


だからどうせこの主婦たちも、このニュースに本当に驚いてるわけではなく、あくまで大袈裟に話すことで話題を盛り上げようとしているだけだ。



「あ、そうそう!昨日お隣の岡本さんの奥さんがね~?」


いきなり話を変えて笑い始めた主婦の傍を、俺は早足で通りすぎた。