唯一布団外へと伸ばされた手が、冷えた空気に凍えている。


ピピピッ…ピピピッ…


すぐ耳元で聞こえているのに、見えない世界でもがく右手は、なかなかその姿を捕らえない。


「だ~マジで何処あんだよ…!!」


誰もいない狭い部屋で、苛立ちのあまりに声を上げる。


ピピピッ…

ピピピピピピピピピ!!!


「だー!!うっせぇ!!」


俺は怒鳴りながら布団から飛び起き、すぐ枕元に置いてあった携帯を手に取った。


―アラーム機能 AM7:03―


設定した時間を3分過ぎると、アラーム音が大きくなるようにしたのを忘れていた。


「チッ…うっせぇ…」

あまりの苛立たしさに、アラームを止めるどころか電源まで切ってしまう。


まるで申し訳ない、とでも言うように力なく消える液晶画面。

俺は携帯を見つめたまま、わざとらしくもう一度舌打ちをする。


「チッ…途中から急に音デカくなりやがって…」


落ち込む携帯をさらに追い詰めるようにそう零すと、元あった場所に携帯を投げた。


いつもそうだ。

アラームをセットする時はいつも、寝過ごさないようにとスヌーズ機能をONにして、安心して眠る。


だけど朝になれば、そんなこと覚えちゃいない。
満足気にスヌーズを設定した昨夜の自分が憎くてたまらないだけだ。