「送らなくて本当にいいの?」


「はい。茜くん、バイトに遅れちゃいますよ」


「まだ明るいけど気をつけて帰れよ?」


「はい、じゃあまた明日」




手を振ってくれる茜くんに頭を下げてから、家路を目指していると



少し前を天音さんが歩いているのが見えた。





「天音さんっ!」



無意識に天音さんを呼び止めていた。





「あら、胡桃ちゃん。沖縄で会ったぶりかしら」




天音さんは足を止めると、こちらに振り向く。



本当に…綺麗な人。




仕草のひとつひとつが凄く色っぽくて、女の私でも見惚れちゃうよ。




この人がフラれて私なんかがOKしてもらえたなんて


本当、嘘みたい…。





「何か用?」




用なんて特にないけど、私…





「…もしかして、茜と付き合えたって自慢でもしたいのかしら?そういう話なら勘弁してよね」




天音さんに言わなきゃいけない事、あるよね。






「私、天音さんがあの日、茜くんと沖縄に来ていなかったら…天音さんがいなかったら茜くんに告白出来ていませんでした」




フラれて可哀相ではなく

付き合ってごめんなさいでもなく



ただ、伝えたかった。






「…ありがとう、天音さん」




知り合いでも友達でもない、ただの顔見知りの私なんかにこんな事言われて


きっと天音さん、ムカつくよね。




でも言いたかった。






「…悪いけど、私は茜を諦めるつもりはないから。勝った気でいない事ね」


「それはもちろんです!」



今だって不安でいっぱいだよ。



茜くんは本当は

天音さんを好きなんじゃないかって…。




でもね

茜くんが大好きだから

信じようって思ってるの。





好きな人を疑うなんて最低な事だもんね。