「見てるだけじゃ分からない事、ひとつだけなら知ってますよ」


「ほう、何だ」


「胡桃も俺が好きってこと」




真っ直ぐ見据えてそう告げると


お兄様はチッと舌打ちしてから店を出て行った。






「棗に認めてもらうのは一筋縄ではいかねぇみたいだな」




吉澤先輩はお兄様のいた席に座った。





「先輩、仕事しなくていいんスか?てか、盗み聞きなんて趣味悪いですよ」


「うるせぇな。休憩中だよ。それになぁ、カウンターの真横の席で話してたら嫌でも聞こえんだろ」




それを聞こえないようにすんのが大人ってモンだろ。



これだからキモロン毛は。





「いいんですよ、認めてもらえなくても」




あの兄貴が頼んで認めてくれるほど楽な相手じゃない事ぐらい分かってるし。



でも、引き下がるつもりもねぇ。





「認めざるを得なくしてやるから」




俺より胡桃を好きな奴なんかいない。



他の野郎より
お兄様よりも。


それを思い知らせてやる。






「そうか。お前らしいな。俺はお前が胡桃にマジなの知ってっから、応援してやるよ」


「…え。どういう風の吹き回し!?優しい先輩ってキモいっス」


「あんなセリフ聞いたんだ。力になってやらないワケにはいかねぇだろ」


「あんなセリフ…?」





何か言ったっけ、俺。






「“俺より胡桃を想う奴なんかいねぇんだよ!”だったかな」


「…先輩が言うとキモ〜」


「テメェっ…!!」





いやはや。


改めて思い出すと恥ずかしいな。




でも、そのおかげで胡桃に好きって言って貰えたし。



結果オーライかな。





でも出来れば

俺から言いたかったなぁ。