「おい」

「おい!」

「バカネ!!聞こえてんだろ」



んー?

なっちゃんか。


いつものように店のレジに立っていると、なっちゃんがやってきた。


フイフイと手払いすると、なっちゃんの右額に青筋が浮き出る。





「貴様、仕事中に白目剥いてレジに立っているとは、何様なんだ」


「空気の読めないなっちゃんも何様ですか」





今は、なっちゃんの顔は見たくない。

双子なだけあって、胡桃と重なるから…。






「最近、胡桃に近づかないらしいな。やっと不釣り合いだと気づいたか」


「はい、アイスカフェラテのMですね。420円になります」


「シカトをするな、目の下クマ男」




他の客の珈琲を注ぎながら、なっちゃんの話を聞き流していた。


なっちゃんはレジの前で仁王立ちをしている。





「…なっちゃんって、こう見ると本当ちんちくりんですね」



シラケた眼差しで見下ろすと、なっちゃんはカウンターを蹴飛ばしてその場を去った。


と、思ったら再び戻ってきた。






「何がしてーんスか」


「…根性無し。意気地無し。ヘタレ、変態、ストーカー、クソ野郎」


「なんなんスか、ガキみてぇに」


「お前は、胡桃とこのまま終わって後悔はないのか?」


「…後悔ならしまくりですよ。でも、俺はもう何も出来ないじゃないスか。胡桃は俺が胡桃を忘れる事を望んでる。それなのに、俺が追っ掛け回したら胡桃が可哀想だ」




あんな嘘まで付いて、
無理をして、胡桃は俺から離れた。


その気持ちを汲んでやらないと、
報われないじゃないか。





「お前は、胡桃の何を見てた。よく見極めろ、愛があるのならばな」



なっちゃんは俺を少し悲しそうな目で見据えた後、店を出て行った。