「…これで、サヨナラ出来ます。茜くんとも、今の私とも」


「いくな、胡桃。俺はっ…」


「茜くん、約束です。…幸せになって下さい」




胡桃はいつもの笑顔を浮かべると

俺の両目に手を翳した。





「胡桃?」


「茜くんは優しい呪文(ウソ)を私にくれたから、私も優しい呪文をつきます」




ウソ?


俺は一度だって

ウソなんか言ってないよ。




…大切な本音も

言わなかったけれど。






「…私達は出会ってなんかなかったんです。綾瀬胡桃なんて、存在しないんですよ。だから次、目を開けたら何もかも夢だったと想うはずです。…いや、想って下さい」




呪文のような嘘を唱えた胡桃は

俺から手を離すと


静かに家を出て行った。








初めて言った愛してるも

初めてした純粋なキスも




胡桃にとっては全部

優しい嘘でしかないんだと


悟った。