テラスがいなくなって、
数時間もの間、
玖零羽は暇を持て余していた。
昨日のように街に出たかったが、
自分1人で行っては、
きっと方向音痴の自分だから、
迷子になるに違いないし。
本を読もうにも、
暗号のような文字で書かれてるため、
全くもって読めないし。
ケーキなどのスイーツを食べようにも、
コルセットによる、
尋常じゃない締め付けによって、
食べる気も失せていた。
だから、そんな玖零羽に、
客が来たとの知らせが
メイドからあったときには、
玖零羽はいい暇つぶしになるかな、と
少し喜んでいたが、
その本人と会った時、
玖零羽の、
上がりっぱなしだったテンションは
光より速いスピードで下がった。
なぜなら、相手は、
中年の貴族だったからだ。
いかにもメタぼリック検査に
引っ掛かりそうな、
ボールのようにまるい腹。
脂汗にまみれて、
何故かすでに息が上がっている。
というか、本人の持ってるハンカチが
びしょびしょを通りこしてぐじょぐじょだ。
貴族。
許そう。
中年。
…。まだ、許そう。
いや、やっぱり無理かな。
メタボ。
ダメだろ。
脂汗。
即、無理。
相手は玖零羽を見るなり、
嬉しそうににこにこし始めた。
玖零羽の背中に冷や汗が流れおちた。


