「レフトー、いくぞー」


「相沢! 油断するなっ」


“ノック”でもやっているのかな?


あたしの学校は、坂の上にあって。

坂の下にある学校。 “朝日学園”の野球部の練習声が聞こえて来るんだ。


野球なんて…… 1度もやった事が無い。


それでも。
湊人が好きなスポーツだったから。


野球部の声を聞くだけで、落ち着いて。

――― 湊人を、思い出す。



「今日は聞こえる?」


「うん、聞こえるよ」


グーッと窓に体を近づければ、微かにだけど。

聞こえるの。


――― カキーン!


今度はボールを打った音が聞こえた。



「今日は咲良に期待は出来そうにないね」


「あたしはここで待っているから、早く終わらしてね」


早く…… なんて、嘘。

本当は遅くまで掛かって欲しい……。

なんてこと……。


「下校時刻まで掛かって欲しいくせにっ。 咲良の嘘つき」


春香には、バレていたみたい。