薔薇の眷属

「誰か住んでるんじゃ…」
俺が言いかけると、コツコツ、と乾いた響きが耳に届いた。
空気が凍りつく。

「人んちの前で何してるんですか、あーた」
窓を叩いたのは、暗い表情のひょろりとした若い男だった。
「き……」

直後、つんざくような悲鳴が雷のように轟いた。



「こっちがびっくりしましたよっ」
「ごめんなさい…」
アイさんはしゅんとしている。
いぶかしがりながらも館内に通してくれたこの男を幽霊だと思い、絶叫したのは彼女であった。
あの声じゃ幽霊の方が驚いて腰を抜かすだろう。
「まったく、冷やかしとは呆れますね」
ろうそくを持ち先導しながら男はため息をついた。

「冷やかしやないわ、もやし男！立派なサークル活動やっちゅうねん」
「誰がもやしですか！私にはちゃんとヤモリという名前があるんですぅー」

この暗い中よく呑気に言い争いができるものだ。
電気が通ってないらしかった。

「うっさいこの爬虫類」
ニューロンはなんだかピリピリしていた。
普段であれば、初対面の人間にこんな口をきく彼ではない。