あたしが座っている高さに合わせて、颯がしゃがむ。



「怖かったよね、女の子だもん」

「あなたは、なぜここに…」

「えー百合ちゃんに呼ばれた気がしたから?とかいってー
あ、勘違いしないでよ?俺はストーカーとかじゃなくてたまたま
バイト先が近くのファミレスなんだよ」



あっち、と言って遠くに見えるファミレスの看板を指差す。

こんな所でバイトだなんて、家が近くなんだろうか。

彼も冬木くんと同様、電車や帰り道で会った事なんてないんだけれど。

あたしの考えていることがわかったみたいに、颯が答える。



「俺んちは仲野なんだけど、なんかサキちゃんに頼まれてさー断れなくて」



仲野って…ここより2つも前の駅



「頼まれたら、何でもするのね」

「うん、百合ちゃんもなんかあったら言っていーよ
颯を独り占めしたい!とかってゆーお願い以外なら大歓迎だよ
俺は生憎みんなのものだからさ、そこはごめんね」



そんなお願いは間違いなく無い。

けど…



「あたしに…」



何を言おうとしていたのか、自分でもわからない。

はっ、と口をおさえる。



「なんでも、ないわ」



あたしは一体、何を言おうとしていたんだろう…

颯を見ると馬鹿みたいにへらへら笑ってる。

…こんな人に頼み事だなんて、一生しないだろうと思った。