「本来はどちらへ行かれるつもりだったんですか?」

警部の質問に、達郎は名古屋ですと答えた。

「ええ。長い間、外国に行ってまして、日本へは今朝着いたんですが、帰宅前に寄り道しようと思いまして」

「寄り道?名古屋に何があるんですか」

「名古屋から関西線に乗り換えて伊勢に行こうと思ってたんです」

「伊勢というと、三重県の?」

「はい」

駅長室の隅にキャリーバッグが置かれていたが、達郎のものだろう。

「帰国早々に伊勢に何の用で?」

岸警部の声に緊張が混じる。

それはあたしにも伝わった。

ところが達郎は

「赤福(あかふく)です」

と、場違いな名前を出した。

「伊勢名物の赤福を買いに行こうと思ってたんです」

「赤福、ですか?」

岸警部の頭には、餅をたっぷりのこしあんで包んだ、地方名物が頭に浮かんだはず。

「はい。なんか赤福を食いたくなって。それで名古屋に向かったんです」

達郎はさらりと言ってのけた。