両手でも足りない

海斗のことが好きって自覚してから、この瞬間まで早すぎて。

あまりの早さに、悲しいとか苦しいとか思う余裕すらない。


なのに、間髪いれずに海斗の話しは止まらなかった。


「…お前ねー、最後まで人の話しは聞くもんだぞ?」

優しさを含んだ口調でそう言われても、あたしの耳は拒絶反応を起こすばかり。


首を左右に振り続けるあたしに痺れを切らしたのか。

「ちゃんと掴まれ!」

と、あたしの左手を掴み取って自分の腰に当てる。


「っと、危ねえ!」

片手がハンドルから離れて、自転車がふらつく。


咄嗟にあたしは添えるだけだった手に力を入れ、海斗の腰にしがみついた。


そして、あたしがしっかり掴まっていることを確認してから、なんの躊躇いもなく。


「俺、やっぱりお前のこと好きだわ」

海斗はサラッと言葉にして吐き出す。


「トモ兄には勝ち目ないけどな」

なんて言って、あースッキリした。って、爽快な声を上げた。