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放課後に紗弥加との寄り道をしていると、すっかり外は暗くなってしまった。
柚音はてくてくと、暗い道を家にむかって歩く。
やがて、近所の中でも大きく立派な、一際目を引く家が見えてきた。
電気はついていない。
これが、柚音にとっての“当たり前”の光景だった。
家に入ると、真新しい家の独特の匂いがした。
この家は新築とは言えない程に年数を重ねてはいるものの、柚音が寝るためだけにあるようなこの家からは、美味しそうな料理の匂いを始めとする、「生活の匂い」などはしないのだ。
しーんと静まり返った家、一人だけの空間、買ってきた一人で済ませる食事、どれも柚音にとっての“当たり前”だった。
もう何年も、こんな生活が続いている。
もぐもぐと食事を摂りながら、それとなくテレビをつけた。
ぱっと画面に映ったのは、世の中の女性達が憧れる、《MIYA》、柚音の母親が出演しているドラマだった。
柚音はそれを見た途端、眉間に深い皺を寄せてプツンとテレビの電源を落とし、リモコンを乱暴に置いた。
「…何が世の中の女性達の憧れよ。」
ぼそりと呟いた柚音の言葉は、静寂の中に消えて言った。
柚音には、母親に遊んでもらった記憶も美味しいご飯を作ってもらった記憶も、一緒に眠った記憶も無い。
父親は柚音の生まれた後にすぐに亡くなったらしい。詳しい話をしてくれる人もいなかったため、父親の事はよく知らない。


