その後、確かにフユの右親指の下には5センチほどの傷が残っていた。 あたしがいくら謝っても、 「大したことない」と言ってその話題には触れたことはなかった。 …男の傷も、‥右親指の下…。 そしてさっきの飲み屋での 微かな記憶。 このサングラスの男の友達が… この人を「桜庭」と読んでいた。 ‥桜庭…。 …………………あ…。 高校時代、一度だけフユを名字で呼んだことがあった。 「桜庭くん」…と。