キッと睨むと、柊は本を差し出してきた。


「これ、さっき俺が奪った小説。」

忘れてた。あたしは「秘密の薔薇園」を柊の顔も見ずに奪い取った。
歩きだそうとするとぐっと強く腕を掴まれた。


「そんなに俺のこと…見れない?」


呆れて見上げると真面目な顔をして立つ奴がいた。

あまりにも真面目な顔をしてるもんだから思わずじっと見つめた。


「見れないってか、嫌いだって言ってる。あたし嫌いなの。あんたみたいな、俺ってかっこいいだろ?って台詞を顔全面に押し出してる奴。分かった?」

掴まれた腕を振り払い歩き出した。


下駄箱まで来て振り返る。
奴は追っかけて来ない。

あー清々した。
また前を見て歩き出し、自分の下駄箱を開けた。

そして靴を出しながら…ちょっと思った。


夕日に照らされたあいつの真面目な顔は少しだけ…マシに見えた。


………そ、マシに。
まあ名前は俄然マシではないが。

そんなことを考えながら、靴をはいて帰りを急いだ。