「…雪ちゃん」
明らかに動揺を隠せない僕に向かって、あいつが言った。
僕は何も言えずにその場に凍りつく。
あいつは一瞬逡巡した様子を見せたが、その長い足を僕に向けた。
目の前に来る。
久しぶりに目を合わせる。
「背、伸びた?」
あいつは手のひらで僕との目線を比べようとした。
反射的に僕はその手を払う。
「…やめろよ」
刺すような冷たい声。
あいつの寂しそうな顔が、目の端に写った。
…俺、何してんだろ。
あいつにこんな顔させたいわけじゃないのに。
そう思うのに、態度に表せない。
沈黙が、痛いほど二人を包んだ。
…先に口を開いたのはあいつだった。
「…雪ちゃん、あのね…」
「悪いけど」
僕は思わずあいつの言葉を遮る。
もう無意識だった。
「こういうとこ見られて、誤解されたら困るから。」
グラウンドで野球部の掛け声が響く。
「帰って」
僕は呟いた。
あいつの口からは何も聞きたくなかった。
何かを言われるのが、怖かった。



