雪がとけたら



「会ってないんだ」
「見かけてすらねぇよ」

やがて西は、ふっと吹き出して言った。


「こりゃ重症だね。そうとう意識してる。」


僕は思わず西の笑顔に反論した。

「意識なんてしてねぇよ!」
「意識でもしないと戸田さんを目につかない様にするなんて無理だよ。何もしなくても目立つ人だから。」

二の句が継げない僕に、西は続ける。

「彼女、最近また綺麗になったよ。美少女の『少女』が、少し薄くなった感じ。」

想像しようとした僕を、もう1人の僕が止めた。

「中川はいいの?どんどん綺麗になってく戸田さんを側で見てないで。それでいいの?」

西の問いかけが、煙草と夏の香りの中で浮いていた。

しばらくして、僕は重い口を開く。


「…そうやって成長して、いつか俺から離れていったら?」


西は僕の方を見ずに、煙を吐く。


「今は側にいられても、いつかあいつは離れてくかもしれない。あいつから…離れてくかもしれない。だったらもう最初から、側にいなきゃいいんだ。…そう思った。所詮俺等には、ぴったりくる肩書きなんてなかったしな。」

僕は自傷的に笑って呟いた。


「世間一般の『幼なじみ』ってやつも、こうやって離れてくんだろうな」