……………
「あれ、雪ちゃん?」
あいつの瞳は、校門に背を預けている僕を捉えた。
変わらない笑顔でパタパタっと駆け寄り、長い指で髪の毛をさっと掻き分ける。
「部活終わったの?珍しいね、帰りに会うの」
僕等はお互い運動部なので、なかなか帰りに鉢合わせることはなかった。
「今から帰るの?」
「…あぁ」
「じゃあ、一緒に帰っていい?」
素直なあいつの問いかけに答えることなく、僕は足を踏み出した。
あいつは一瞬逡巡した様子だったが、いつもの様に後ろからついてきた。
空は赤くなかった。
明日は雨が降るかもしれない。
「もうすぐテストだね。雪ちゃんちゃんと勉強してる?また置き勉とかしてるんでしょ」
背中に小さな笑い声を聞いた。
「雪ちゃん文系は得意だけど、理系は苦手だもんね。あたしも数学はあんま好きじゃないんだよなぁ…」
僕は次第に足の回転を速くする。
「ね、雪ちゃ…」
「だから雪ちゃんって呼ぶなって!」
…突然の大声に、あいつは明らかに顔色を無くしていた。
数歩分離れた僕等の間には、何とも言えない梅雨の空気が充満している。



